補助線大嫌い!(その2)
さて、前回の例題解説の続きです。以下の解説図面から、例題の面積は簡単にもとめることができたと思います。
ところで、これらの補助線はどのような思考を経て引くことができたのでしょうか。数学嫌いの私なりに、因数分解してみたいと思います。
(1)まず、円の中心OからCに補助線を引き、図形ACBを三角形ACOと扇形となるOCBに分割し、それぞれの面積を求めて、合算する方法で考えます。ここまでは、そう難しいことではないと思います。
扇形OCBの面積は、半径4㎝の円の面積の一部となります。二等辺三角形ACOの外角は30°ですから、π×r×r×(30/360)で求められます。πは3.14でrは4㎝を入れます。面積は約4.19㎠
(2)次に、三角形ACOの面積を求めます。次の順序で考えます。
①円の半径AO、OCは等しいから、三角形ACOは、底角がそれぞれ15°の二等辺三角形となる。
②三角形の面積は、底辺×高さ÷2で求められる。
③三角形の高さを求めるには、高さとなる垂線を引く必要があるが、高さはどうしたら求められるか?
④Oから引くか、Cから引くか?CからABに垂線を下すと、内角30°と60°の直角三角形OCEができる。さて、この高さは?
と、ここまでは何となく因数分解でき、垂線CEという補助線も引けます。
次に、この垂線を円と交わる点まで伸ばし、円の中心Oと結んで三角形OCDをつくるように補助線を引きます。(ここには思考の飛躍があります。)
⑤三角形OCDは、いずれも60°の内角を持つから、正三角形である。正三角形の各辺の長さは等しい。
⑥正三角形の一つの頂点Oから向かい合った辺に降ろした垂線OEは、その辺CDを二等分する。
⑦正三角形の一辺の長さは、半径に等しいので、三角形ACOの高さCEは半径の半分(4÷2=2㎝)であることが分かる。
従って、三角形ACBの面積は、4(底辺)×2(高さ)÷2=4㎠となる。
(3)例題の答えは 約4.19+4=約8.19㎠となる。
①から④までと⑤から⑦までについては、演繹手法で導かれたものであり、納得がいきます。しかし、前述のように④から⑤への思考の飛躍は、何だったのでしょうか。
そこには、「30°と60°の直角三角形のとき、もう一つ同じ直角三角形を作れば正三角形になる。正三角形になれば、”正三角形のとき、その頂角からの垂線は下辺を二等分する”を使えば、解けるかも。」という、一つの「ひらめき」のようなものがあったはずです。しかし、これまでの演繹法とは思考の方向が全く異なります。これを帰納的思考とでもいうのでしょうか。脳のどこかに置いてあった小道具を見つけ出してくるという思考過程(ひらめき)があったはずです。どんなに図形の定理や性質を知っていたとしても、過去の経験や試行錯誤の結果によって蓄積された重層的知見(経験)がなければ、このような補助線も引けず答えにたどりつけないのでは、と思ったりもしますが、皆さんはどう思われますか?
この問題は、「正三角形の頂点から垂線をひくと底辺を二等分する」という演繹的パーツを帰納的に思いつけるかということにつきます。私なりの結論を言えば、とにかく問題を沢山こなし、このような演繹的パーツを頭に格納しておく。たとえば、「内角に15°という数字がでたら二等辺三角形を考えてみる。その時の外角は30°。外角30°の直角三角形ができたら、正三角形を作ってみる。正三角形の垂線は底辺を二等分する」という具合。設問の角度は15°ですが、これが30°であったらどうなるか。45°であったらどうなるかまで考えた上で、「これが使えるかも」と必要なパーツを帰納的に思いだすことができたら、補助線は容易に引くことができます。補助線ありきではなく、演繹的パーツの有無が先です。ですから、「補助線を引くヒントは?どうして思いつけましたか?」との質問に回答があるとすれば、「前に似たような問題があって、この補助線で答えがだしてあったと記憶している」ということになるのでは。問題の解説者にも、「この補助線を求める問題は、過去に〇〇中学入試問題でも出ています。」と言ってくれれば、「なるほど。過去問をとけばいいのか」と納得できたように思います。もっとも、数学が得意な方々の思考方法は、もっと別にあるのかもしれませんが。
今になってみれば、先の幾何学の先生に言ってほしかったことは、「期末試験までにできるだけ多くの問題を繰り返し解くこと。補助線を引く上での王道など凡人の君たちにはないのだから」と。