大河ドラマは二度おいしい(その2)

 さて、YouTubeで「大河ドラマ」と検索すると、歴史の専門家や自称歴史研究家と称する面々(歴史ユーチューバー)がいろいろな動画をアップロードし解説しています。彼らの解説がとても面白い。
 史実とドラマを比較して、事実として残っている部分と脚本家・演出家が創作した部分を腑分けし解説する者、歴史に名を残している登場人物を歴史書「吾妻鏡」等から引用して解説する者、演出方法やカメラワーク、背景に流れる音楽まで解説する者など、様々なユーチューバーが動画で解説しています。更に、これを視聴した人がコメント欄に自分の考えを投稿したりしています。これを見ていくと、登場人物をめぐる歴史的背景、行動原理等々をより詳しく知ることができ、ドラマの見方が重層的となります。さらに、彼らは脚本家、演出家が様々な趣向を凝らし、さながら推理小説の謎解きのような仕込みがなされていることを教えてくれます。しかし、45分のストーリー展開の中で、私たちはそれらを解き明かすことはできていません。
 例えば、第15回の「足固めの儀式」で主人公北条義時に嫡男(後に鎌倉幕府第三代執権となる北条泰時)が生まれ、その子が泣く場面があります。テレビで見ていた時には、泣き声が普通の赤ん坊とちょっと違うなとは感じていましたが、スルーしていました。
しかし、この泣き声に、ユーチューバー達はしっかり反応していて、「武衛(ぶえー)、武衛(ぶえー)と泣いている。上総介広常の生まれ変わりを表現していた」「いや、将来泰時が「武衛」となることを予言したものだ」等々、この動画の視聴者(コメント投稿者)も含め、この泣き声をめぐり盛り上がっていました。因みに、「武衛」とは「天子を守る武官のことで、将軍のことを意味し、兵衛府の唐名。佐殿(左兵衛佐 さひょうえのすけどの)より、上位の呼び方」とのこと。上総介広常が頼朝に対して使っていた呼称です。この動画解説や投稿者のコメントで、赤ん坊の泣き声の違和感に合点がいきました。演出家は、そのところを密かに仕込み、視聴者が気付くかどうか試していたに違いありません。このことに気づけた人は、よりドラマを楽しむことができたのでは。
 もう一つ、同じ回で、木曽義仲が頼朝に人質として差し出した源義高(義仲の嫡男)と頼朝の長女大姫との悲恋を描いたところです。木曽義仲と頼朝が敵対関係となり、義高は頼朝に誅殺されることに。これを知った大姫が頼朝に助命嘆願するする場面があります。大姫の必死の願いに頼朝も折れて、義高を殺さないことを約束する起請文(きしょうもん 誓約書)を書くことになりますが、取り出された用紙には、なにやらおどろおどろしい模様が入っていて、「なにそれ?」と思っておりました。ユーチューバーの解説によれば、そもそも起請文とは神仏に誓約する言葉を書き表した文書のことで、神社の発行する「牛王(ごおう)」と称する紙の裏に書き、血判を押したものだそうです。牛王紙とは、梵字やら烏の絵を刷り込んだ特別の用紙で、この牛王紙に書いた誓約を破ると神罰を受けるとされています。その変な模様とは、その用紙に刷り込んであった梵字などだったのでしょう。初めて知りました。これは演出家の罠といったものではありませんが、時代考証のうえで細部にまでこだわって作られており、とっても勉強になります。「真実は細部に宿る。大河ドラマも細部にこだわる」といったところでしょうか。これもユーチューバーの解説があってこその発見です。

 やはり、大河ドラマは二度おいしいのです。