家族信託
「家族信託」は、最近週刊誌の「終活コーナー」などで取り上げられるようになりましたのでご存知の方もあるかもしれません。
「信託」とは、文字通り「信じて託す」ということであり、民法の特別法である信託法に基づいて、自分(委託者)が、自分の財産を信頼できる人(受託者)に託して、自分又は誰か(受益者)のために、特定の目的に従って管理・処分してもらう仕組みです。原則,委託者と受託者との契約によりスタートします。2007年の信託法の改正により、受託者が信託銀行などから個人にまで広がったため、受託者が銀行などの場合を「商事信託」、個人の場合を「家族信託(民事信託)」と区別しています。
「家族信託」は、契約内容に自由度が高く、その使われ方は様々です。例えば、
①将来自分が認知症となってとき、財産の処分が凍結される心配(認知症対策)
②親なき後、障害のある子どものことが心配(親なき後対策)
③自身の老後の財産管理に不安がある(老後対策)
④病弱な配偶者の財産管理が心配(配偶者対策)
⑤今の事業を息子から孫まで承継できるようにしたい(事業承継対策)
⑥ペットの行く末が心配(ペット信託®) など。
この中でも特に親の認知症対策としての「家族信託」が注目されています。どのような仕組みでしょうか。
先ず、父親が元気なうちに信頼できる家族(息子など)に父親の財産(現金、賃貸アパートなどの不動産等)の管理運用を任せ、これらの財産から生じた収益などを委託者(受益者)である親の介護費用や生活費として渡すことを目的とした信託契約を締結します。
この契約における登場人物は三人。父親(委託者)、財産の管理運用をする家族(受託者)、それと収益を受け取る父親(受益者)です。委託者と受託者との信託契約開始と同時にアパート等の財産名義は家族(息子など)に移り、管理運用は息子が行うこととなります。この財産運用から得られた収益は受益者である父親の介護費用や生活費に使われます。途中で父親が認知症となった場合でも、財産名義は受託者となっているため、預金の引き出しなどは凍結されることなく行えます。さらに、その後父親が亡くなったときに、当初の契約で母親が第二受益者として指定してあれば、この財産から生ずる収益を母親の生活費とすることもできます。親が亡くなったとき契約が終了することとし、残余財産の帰属先を息子にしておけば、信託財産のアパートなどは相続手続きを経由することなく、息子に移ります。「家族信託」によって、遺言による財産の相続分の指定と同様の効果もえられます。
ただし、相続と同様、遺留分侵害については配慮が必要と言わていますので注意が必要です。
この「家族信託」は、このように成年後見制度や任意後見制度の財産管理上の不便さを補うものとしては有効ですが、後見制度の持つ身上監護機能(介護施設への入所契約及び費用支払い、病院入院時の契約及び入院費用の支払い、住宅入居契約、見守りなど)は、信託契約の対象とはならないので、場合によっては任意後見制度との併用も検討する必要があります。また、成年後見制度は後見人の不正を家庭裁判所がきちっと監視してくれますが、「家族信託」は受託者を信じて任せる自由度の高い仕組みであり、それだけ監視の目が弱いものとなっていますので、受託者は本当に信頼できる人であることが大事です。
「家族信託」は新しい制度でもあり遺言や後見制度ほど馴染みのあるものではありません。契約書の作成などに際しては、「家族信託」をよく知っている専門家(弁護士、司法書士、行政書士)にご相談されることをお勧めします。