相続で自宅に住めなくなりそう

 退職金で求めた戸建ての住宅から、子供たちも巣立っていき、今は年老いた夫婦二人暮らし。ご近所とも仲良くなり、時にはお茶会も。でも、そんな暮らしにもいつかは終わりが来ます。やっと手に入れた終の棲家です。配偶者が亡くなっても愛着があり、庭の木々一本一本にも思い出が詰まっています。今更、自宅を売って老人ホームには入りたくありません。かといって、遺産分割で自宅を相続すると預貯金の分配は受けられず、今後の生活費に困りそう。一方、子供たちも相続財産をあてにしている。

 「さて困った。何とかもう少しこのまま自宅に住む方法はないものだろうか。」そう思ったときに、「配偶者居住権」という言葉を思い出してください。平成30年の民法改正により、残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されました。

 「配偶者居住権」とは、残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません。)に居住していた場合で、一定の要件を満たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が、賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利です。
 残された配偶者は、被相続人の遺言や、相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって、配偶者居住権を取得することができます。
 配偶者居住権は、第三者への譲渡や、所有者に無断で建物を賃貸することはできませんが、その分、建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権を確保することができるので、遺言や遺産分割の際の選択肢の一つとして、配偶者が配偶者居住権を取得することによって、預貯金等のその他の遺産をより多く取得することができるというメリットがあります。(法務省 Q&Aより)

 この「配偶者居住権」については、財産評価の計算方法、相続税計算、登記(第三者対抗要件)等々、難しいことも出てきますので、「相続開始後、このまま住みたいけどどうしたらよいか」と心配になったら、早めに専門の行政書士、税理士などにご相談されることをお勧めします。
 もっとも、残された配偶者に対して、思いやりのある相続人の方々ばかりであれば、このような権利を持ち出す必要はありませんが。

 この「配偶者居住権」とともに、「配偶者短期居住権」という権利も設けられました。配偶者居住権が長期のものとすれば、配偶者短期居住権は、言ってみれば緊急避難として短期間住み続けることのできる権利です。
 「配偶者短期居住権」とは、夫婦の一方が死亡し、残された配偶者が、被相続人の所有する建物に居住していた場合、残された配偶者が、直ちに住み慣れた建物を出ていかなければならないとすると、精神的にも肉体的にも大きな負担となります。そこで、亡くなった方の所有する建物に居住していた配偶者が、引き続き一定期間、無償で建物に住み続けることができるよう、設けられた権利です。配偶者が居住していた建物について、遺産分割の協議が行われる場合には、配偶者は遺産分割の協議がまとまるか又は遺産分割の審判がされるまで、建物に住み続けることができます。遺産分割が早期に行われた場合でも、被相続人が亡くなってから6か月間は、建物に住み続けることができます。(法務省 Q&Aより)