遺言

遺言と遺書の違い

 遺言は民法で定められている事項(相続財産の配分方法の指定、遺産分割の指定、遺贈、認知、遺言執行者の指定など)について、民法で定められた方法(自筆証書遺言、公正証書遺言など)により、法律に定める要件に従って書かれたものでなければなりません。要件を満たした遺言には権利変動などの法的効力が認められるため、その要件は法律で厳格に定められています。あとで有効、無効が争われないようにするためには、無効となる可能性の低い公正証書遺言とすることをお勧めします。
 一方、遺書とは、死に臨んで自らの思いを家族や兄弟、友人・知人などに書き残したものであり、遺言を含む広い概念と考えてよいと思います。
「遺言など縁起でもない」と思われた方は、遺言と遺書とを取り違えていらっしゃるかもしれません。また、「遺言など面倒なことはしたくない」と思われるのは至極当然ではありますが、残された家族が相続で悩むことを考えた場合、特に次のような方々には是非、ご検討ください

とくに遺言が必要な方

奥様を大事にしたいご主人

 といってもご子息をないがしろにしろと言っているわけではありません。特に、お子様のいないご夫婦の場合、ご主人が亡くなるとご主人の親御さんや兄弟が法定相続人として登場してきます。大事な奥様だけに財産を残すには、「全財産を妻〇〇に相続させる」旨の遺言は不可欠です。「とりあえずの遺言書」でもよいので、万が一を想定して書いておきましょう。
「とりあえず遺言」とは、一枚の便せんなどに、先ほどの内容を全文直筆で書き、日付、名前、押印をして封筒に入れて奥様に渡しておく自筆証書遺言のことです。

個人事業主として事業を営まれている方

 ご主人が個人事業主となって自営業を営まれており、ご主人がお亡くなりになっても家族で事業を継続するつもりがある場合、事業に必要な動産、不動産等の事業用財産について、遺言で後継者となる相続人に相続させる旨を書き記しておくことが必要です。法人にて営業されている場合には、後継者となる相続人に株式の半数以上が相続されるよう決めておくことです。

相続人同士の仲が悪い場合

 相続人同士の仲が悪く、遺産分割協議もままならないと予想される場合は、遺産分割の指定(誰に、何を相続させる)をしておけば、未然に争いを防ぐことになります。それでも相続人の間では不満が残ることもあるでしょうから、遺言書の中の「付言(ふげん)」という項目をたてて、どうしてそのような配分や分割をしたのか理由を述べておくことも必要です。

相続手続きに余計な手間や時間をかけさせたくない場合

 相続人がご高齢である場合、相続人が多い場合、相続財産の種類が多い場合などのケースでは、遺産分割に多大な時間と労力が必要で、残された家族にとっては大変負担となります。このような場合、遺言書に配分割合や遺産分割の指定があれば相続人の負担が軽くなります。更に、遺言執行者に行政書士などの専門家を指定しておけば、より効率的となるでしょう。

特別に財産をあげたい人がいる場合や相続人がいない場合

 介護で世話になった息子の嫁さんに財産を渡したい場合やペットの引受先に財産を差し上げたい、あるいは障がい者のご子息を面倒見てくれる方に財産を渡しておきたいなどの場合は、その旨遺言に記載があれば遺志が実現できるでしょう。また、身寄りがなく相続人がいらっしゃらない場合、残った財産をどうするかについて遺言に書き置くことも、死後の処理をしてくれる方への配慮として必要でしょう。

遺留分侵害額請求権

 被相続人(亡くなられてご主人)が遺言で指定した相続分が民法で定める法定相続分と異なっていても、故人の意思尊重の観点から指定相続分が法定相続分に優先されます。
 しかし、遺言による指定分が絶対優先という訳ではなく、兄弟姉妹以外の相続人に対しては最低限の相続分が民法で保障されています。この最低限の相続分を侵害された相続人は、遺留分権利者として相続分の指定を受けた相続人等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができ、これによって相続人等から取り戻すことができます。
 従って、遺言により相続分を指定する場合、遺留分侵害額請求権を有することとなる相続人に対しては、一定の配慮が必要となります。なお、遺留分侵害額請求権を行使するかどうかは、権利者の自由です。

 ちなみに、遺留分の計算は、直系尊属のみが相続人である場合は、相続財産の価額に三分の一を乗じた額、それ以外の場合は二分の一を乗じた額となっています。仮に相続財産が6000万円で奥様と子供二人が相続人の場合、奥様の遺留分は、6000万円×1/2×1/2(遺留分割合)=1500万円、子供一人当たりの遺留分は6000万円×1/2×1/2(子供一人分)×1/2(遺留分割合)=750万円となります。「全財産を愛人に遺贈する」との遺言があったとしても、親子3人で半額の3000万円は取り返せます。